• 第8回 超異分野学会 本大会

【第8回大会ダイジェスト】ディープテックの世界的な潮流とは

2020.02.20

左から:Jack Wratten(Leave a Nest United Kingdom/モデレーター)、Jovan Rebolledo(Singularity University)、Brian Miller(uFraction 8)、Kelvin Ong(Focustech Ventures)、前田里美(リバネス)

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ディープテックを加速するアプローチは世界共通なのか?

<2019年開催・第8回超異分野学会ダイジェスト>

 

世界中でディープテックへの関心が高まっているものの、今後の成長可能性についてはまだまだ未知数な部分があるのも事実。果たしてそのアプローチに万国共通の解はあるのか、それともローカライゼーションが重要なのか……。
本セッションでは、日本・東南アジア・ヨーロッパ・アメリカで活躍するアクセラレーターやテクノロジーベンチャーの創業者が、今後のディープテックの方向性についてディスカッションを展開します。

 

第9回超異分野学会は2020年4月23日にオンライン開催します。

 


 

ろ過システムのブレークスルーで世界の食問題を解決する。

 

Jack Wratten(Leave a Nest United Kingdom)

みなさんこんにちは。リバネスUKディレクターのJack Wrattenです。イギリスではBLOOM.SPACEというインキュベーターも運営しています。もともと私はユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで生化学者として10年ほど働いていました。その後、小さな会社や慈善団体を経て再び大学に戻り、ヨーロッパやアフリカで若者にビジネスの教育をするプログラムを立ち上げました。そしてその後にBLOOM.SPACEを設立したという経歴です。

 

ということで、私はいろいろなことをしてきたタイプなのですが、今日は登壇者の皆さんからディープテックに関する専門的なお話をお伺いできればと思っています。まずはそれぞれの自己紹介ということで、Jovanさんからお願いできますか。

 

Jovan Rebolledo(Singularity University Japan)

みなさんこんにちは、Jovan Rebolledoです。メキシコ生まれで、アメリカとの二重国籍を持っています。日本に初めて来たのは2002年で、そのときはJICA研修員としての留学でした。

 

簡単に自己紹介をすると、私はもともとコンピューターサイエンス、コンピューターエンジニアリング、ロボティクス、AI、ニューラルネットワーク、インフォマティクスなどを学んでいた人間です。2009年にシンギュラリティ・ユニバーシティのGSP(Global Solutions Program)に第一期生として参加して、それ以来この大学に関わっています。日本ではシンギュラリティ・ユニバーシティのアンバサダーとして活動していて、GIC(Global Impact Competition)を過去数年にわたって開催しています。それから、東京大学でAIの講座も担当しています。

 

シンギュラリティ・ユニバーシティでは2014年〜2017年にAIとロボティクスの教員を勤めたのですが、これは本当に面白い経験でした。50以上の企業に対して、コア技術の実装に関する支援を行うことを通じて、「いかにしてアイデアを実際の技術や製品やサービスに落とし込むか」ということについて本当に多くの知見を得ることができましたから。

 

そんなわけで、今日はよろしくお願いします。

 

Jack Wratten

Jovanさん、ありがとう。では次にBrianさんお願いします。

 

Brian Miller(uFraction 8)

みなさんこんにちは。スコットランドのスタートアップ企業・uFraction 8の創業者であり、代表者でもあり、そしてコア技術の開発者でもあるBrian Millerといいます。私はメカトロニクスとエンジニアリングを学んだ人間で、ガスタービンの制御と計装の経験もあります。

 

uFraction 8はどんな会社かというと、いわば「ろ過システム」において過去150年間で最大のブレークスルーを達成した会社だと自分たちでは考えています。具体的には、診断装置や実験装置として一般的に使われているごく小さなマイクロ流体デバイスを重層化することで、工業規模のプロセスに活用できるようにする、という技術を開発しています。

 

なぜこうした技術が重要かというと、「食」の問題に大きく関係するからです。というのも、2030年には歴史上初めて人類の生存に十分な食糧生産ができなくなるといわれています。少なくとも、農作物の生産量を現在の水準で推移させるためには大量の肥料が必要なわけですが、現在使用されているリン鉱石を原料とする肥料は、サステナブルとは全くいえない代物です。

 

また、より多くの食糧を生産するということは、より多くの肥料からより多くのリン成分が流出して、水質汚染を引き起こすことを意味します。これが海に流れると、海洋生物に有害な藻が発生することになります。私たちは、こうしたサイクルを変えたいと考えています。

 

よく知られているように、微生物や細菌は、例えばイースト菌などがそうですが、食品や医薬品やファインケミカルなどの幅広い用途に使われています。そして、微生物や細菌の大量生産も既に行われているわけですが、実はその工程は100年以上も変化しておらず、しかも全体の30~80%ものコストがこの部分でかかっています。現在のやり方はとても複雑で、ろ過、凝集、遠心分離という多段式で行われているからです。

 

私たちがやろうとしているのは、この3つのプロセスを1つにまとめてしまう、ということです。これによって、製造コストを大幅に削減することが可能です。

 

さらに、このテクノロジーを活用すれば、リンが含まれる排水中で微細藻類を生産した上で、海に流出する前に採取することも可能だと考えています。そして、リン鉱石を採掘するかわりにその微細藻類を生物肥料として土に戻せば、サーキュラーエコノミーが完成することにもなります。自分たちの技術がより広い領域で活用され、その結果として、より経済的な食糧生産につながることを私たちは期待しています。

 

ということで、今日はよろしくお願いします。

 

 

政府主導で産業の変革が進むシンガポール。

 

Jack Wratten

Brianさんありがとう。次はKelvinさんです。

 

Kelvin Ong(Focustech Ventures)

こんにちは、Kelvinです。私はシンガポールで2つの会社を経営しています。1つはFocus Tech Venturesという民間投資会社、もう1つはTNB VenruresというVCファームです。それから、リバネスとテックプランターのパートナー会社でもあります。

 

私たちのルーツは精密工学で、以前はHDDの部品製造を東南アジアから中国まで展開していました。その会社を売却して民間投資会社に転身し、シンガポール政府とパートナーシップを組むようになった、というのがこれまでの経緯です。

 

現在、東南アジアは6億人の人口を抱えていて、購買力も上がってきています。多くの企業がこの市場に参入しようとしていて、実際にシンガポールでは既に4社のユニコーン企業が生まれています。ただ、いずれもディープテック企業ではありません。いわゆる"Shallow Tech"によってアジア市場のポテンシャルを引き出した企業が成功を収めているというのが現状です。

 

ただ、この流れが少しずつディープテックにも向かいつつあります。現在シンガポールでは、政府主導でさまざまな産業に革新的なビジネスモデルや新技術の導入を促すITM(Industry Transformation Map:産業変革ロードマップ)というプログラムが展開されていて、45億ドルの予算が計上されています。

 

その関連で、私たちもシンガポール政府機関ファンドのSpring Seedsと共同で、インダストリアルIoTやロボティクス領域への投資を行っています。

 

その他にも、いわゆる「未開拓な領域」に注目しています。これは何かといえば、イノベーションやテクノロジーに対して、企業収益の1%も投資されていないような領域です。例えば海運業界がその一つで、現在私たちは大手企業と一緒になってファンド設立を進めているところです。

 

同じようにテクノロジーの導入が進んでいないのが、建設業界です。こちらではすでに具体的な動きが始まっています。一つはIDD(Integrated Digital Delivery)と呼ばれるもので、AIやIoTを設計段階から現場管理にまで導入することで、非常に多くのコストを削減することが可能です。もう一つはDfMA(Design for Manufacturing and Assembly)と呼ばれるもので、これは製造業の最先端技術を建設業界に導入するという内容です。

 

そんなわけで、今日はこうした領域にどうやってテクノロジーを導入するか、という観点のお話ができればと思っています。

 

Jack Wratten

Kelvinさんありがとう。では最後に前田さん、お願いします。

 

前田里美(リバネス)

みなさんこんにちは。このセッションでの私の役割は「教育」の視点を持ち込むことだと思っています。そして、「ワクワク」というキーワードをみなさんにお伝えしたいと思っています。

 

私の経歴をざっと紹介すると、日本の高校を卒業後に渡米し、人間工学と心理学の博士号を取りました。研究と並行して、アカデミックアドバイザーとしても働いていたのですが、その経験から研究職としてではない形で「学校」に関わりたいと思うようになり、2010年にリバネスに入社しました。

 

さて、日本の教育といえば、かつては記憶重視の傾向が強かったのですが、最近では知識をどう活用するか、ということが求められるようになっています。また、グループワークにおけるコミュニケーション力やリーダーシップといった力が必要になり、さらには「答えのない問題」への対応も求められています。

 

リバネスはテックベンチャーや新規事業やイノベーションのサポートをする会社という印象が強いかもしれませんが、教育事業もメイン事業の一つです。また、単に教育サービスを提供するだけでなく、社内に教育総合研究センターを開設していて、私はそのセンター長でもあります。企業や学校現場と協働して、新しい教育手法の開発や、その普及活動に取り組んでいます。

 

現在取り組んでいるプロジェクトとしては、例えば「一生オタクでいるためには」というテーマがあります。この会場には多分「スーパーなオタク」が何人もいるはずです。もちろん良い意味での(笑)。私たちは、そういう次世代のスーパーなオタクを育成する枠組みを構築したいと考えています。

 

もう一つは、生徒たちが「一歩前に踏み出す」ためのモチベーションとは何か、という研究を進めています。多くの生徒たちは、何かに興味は抱くものの、そこから行動に移すことはあまりありません。私たちは、その一歩を踏み出させているものを計測することで、先生が生徒の学習意欲を評価する指標に役立てることができるのではないかと考えています。

 

そしてもう一つお伝えしたいのが、「ワクワクプロジェクト」です。ワクワク(WAK WAK)という日本語はまだ英語の辞書には載っていませんが、できればKARAOKEの隣あたりに載せたいと企んでいます(笑)。

 

ワクワクとは何かに興奮している状態のことですが、ただ興奮しているだけでなく、「実際に行動したい」というウズウズした気持ちもそこにはあります。またワクワクには、他人のワクワクにも影響する力があります。例えば教壇に立つ先生がワクワクしていれば、その場の生徒たちにもワクワクは伝わりますし、教室全体をワクワクした状態にすることもできるはずです。

 

そして、これが大事なことですが、ワクワクは次世代の「スーパーなオタク」を育成し、結果的にディープテックにも貢献することができるはずです。今日はそういう観点でディスカッションに参加できればと思っています。

 

Jack Wratten

みなさんありがとう。このように非常に多彩な視点を持ったメンバーで、そろそろ議論に入っていきたいと思います。

 

 

ディープテックとは「エクスポネンシャルなテクノロジー」である。

 

Jack Wratten

このセッションのテーマは「ディープテックを加速させる動きは世界中で共通していることなのか」、そして「そのための方法も共通しているのかどうか」といったところです。まず、それぞれのディープテックの定義と理解について聞かせてもらえますか。

 

Jovan Rebolledo

シンギュラリティ・ユニバーシティの見解としては、ディープテックとは「グローバルな課題解決に適用されるエクスポネンシャル(指数関数的に成長する)テクノロジー」を意味します。違う言い方をすると、100万人、1,000万人、10億人という規模にインパクトを与えられるテクノロジーということです。

 

エクスポネンシャルなテクノロジーの例としては、AI、ロボット工学、ナノテクノロジー、デジタル生物学などを挙げることができます。こうしたテクノロジーを既存のテクノロジーとハイブリッドさせることで、その効果を増幅し、結果的に多くの人々に良い影響をもたらすことができるようになる。ディープテックとは、そういったものだと考えています。

 

Brian Miller

それはとても良い定義ですね。これは私の持論ですが、何であれ既存の能力を倍増させるような働きというのは、全く新しい気付きによって生まれるものです。「既存の何かを活用する」ということは、「全く新しい組み立てを作り出す」ということとイコールなのではないか、といつも思うんです。

 

Jack Wratten

なるほど。シンガポールのKelvinさんは、ディープテックについて違った観点があったりしますか。

 

Kelvin Ong

シンガポールや、あるいはASEAN全体としても、ディープテックの定義は従来的なものとそれほど変わりはありません。科学的なブレークスルーや、エンジニアリングで強化されたイノベーションや、知財として強固なテクノロジーといったようなところです。

 

ただ投資家の観点からいえば、いくつか考えるべきところは出てきます。例えば大抵のファンドは8年から10年単位で運用されるので、それよりも長い時間軸で見なければならないようなテクノロジーはあまり出てこないということになりがちです。

 

その一方で、先ほども例に出したように、建設業界では3Dプリンタやロボティクスといったさまざまな最先端テクノロジーによって、全く新しい「家づくり」が構想されています。他のVCと話をしていても、この領域では本当にいろいろなムーンショット的アイデアが出てきています。

 

ところが実際に建設の現場に出てみると、そこではまだまだ従来通りのテクノロジーで設計しようとしているわけで、最先端な感じはありません。おそらく本当にブレークスルーが起きるときというのは、現場の専門知識と最先端のテクノロジーが融合したときなのではないかと考えています。

 

ですから私たちのファンドとしても、高度に特化されたテクノロジーというよりは、応用的なディープテックに投資をしている、という状況です。

 

 

「つながりの時代」のイノベーション。

 

Jack Wratten

前田さんは教育の観点から、あるいは若い人たちとの関わりから、何か付け加えることはありますか。

 

前田里美

ディープテックは、プロトタイプに至るまでに本当に多くの試行錯誤が必要で、しかも長い時間がかかります。答えのない問題に対して仮説を立てて、試行錯誤しながら解決策をブラッシュアップするというサイクルを何度でも繰り返していく必要があります。

 

ただ、こういったプロセス自体は、大学院の博士課程で初めて触れるようなものではありません。高校でも、中学校でも、あるいは早ければ小学校でも可能なはずです。長い目で見れば、そういった経験こそがディープテックを発展させる最も重要なきっかけになるのではないかと思います。

 

Jack Wratten

なるほど、ディープテックやアントレプレナーシップやイノベーションは、学校でも教育するべき内容だ、ということですね。だとすると、国の教育政策が大きく関わってくることになります。もう一歩話を進めると、ディープテックの発展に対して、政府はどのような役割を果たすことになるのでしょうか。

 

Brian Miller

イギリスでいえば、政府の役割は本当に大きいですね。研究機関や大学は国家予算で動いていますから。なので、国自体が安定していることがイノベーションの育成には重要だと思います。ブレグジットのようなことが起きてしまうと、計画も立てられないし、判断に確信が持てなくなって、ディープテックの進化はスローダウンしてしまいます。

 

Jack Wratten

確かに国家情勢の不安定さは、イノベーションにとっては試練かもしれません。一方で、イノベーションが起こるときというのは、必要に迫られたときだったりもしませんか。

 

Brian Mille

確かに「戦争は発明の父」といわれたりもしますし、必要に迫られるという意味ではサバイバルな状況に勝るものはないかもしれません。ただ、現代は「つながり」の時代であって、どれだけさまざまな関係性を活用できるかというのが鍵になるはずです。であれば、不安定な国家情勢によって生産性が向上するとは考えにくいのではないでしょうか。

 

 

企業の教育活動は「世代間オープンイノベーション」だ。

 

Jack Wratten

みなさんがこれまでにディープテックのアクセラレーションに関わってきた中で「これは効果的だった」と思うことはありますか。

 

Jovan Rebolledo

私が見てきた中では、やっぱりハングリー精神は大事だな、という印象があります。「億万長者になりたい」とか「アフリカの貧困を救いたい」とか「世界を変えたい」とか、理由は人それぞれですが、そういう強烈なハングリー精神のある人たちは面白いイノベーションを起こしますね。もしかすると、それがワクワクの力なのかもしれません。

 

ただ、ハングリー精神を持つ人は世界中にいるはずですが、それがイノベーションとして開花するかどうかは、そこに民間投資のようなディベロップメントの働きがあるかどうかにかかってくると思います。

 

Brian Miller

おっしゃる通りですね。ただ、資本があるかどうかというのはもちろん重要ですが、その一方で、先ほどから話に出ている教育もまた大きな要素だと思います。ディープテックにおける大きな成功は、質の高い教育が行われているエリアから生まれるのが常ですから。

 

Jack Wratten

この点については、ぜひ前田さんの考えを聞きたいところですね。

 

前田

リバネスの成功事例としては、「大企業を教育分野に連れてきた」ということが挙げられると思います。豊富なテクノロジーやノウハウを持つ大企業を教育の場に連れ出して、その最先端技術をテーマとするプロジェクトベースドラーニングを実施したり、あるいはその企業が直面している課題について高校生と一緒に解決策を探ってみる、といったプログラムを実施してきました。

 

そうすることで、生徒たちは最先端のテクノロジーに触れることができますし、企業側も高校生から斬新なアイデアを得ることができ、相互にメリットがあるわけです。先ほどの繰り返しになりますが、これは長い目で見れば次世代のディープテック予備軍を育成する一つのモデルだといえるはずです。

 

Jack Wratten

なるほど、いわば「世代間オープンイノベーション」というわけですね。Kelvinさんはどう思いますか。

 

Kelvin Ong

シンガポールや東南アジアは、まだそういう状況ではないかもしれません。企業は経営すること自体に必死で、子どもたちの教育に携わるというところまでは考えがなかなか及んでいないように思います。

 

どちらかといえば、企業自体を成長させることが未来の雇用を産むことになるとか、会社に資金があれば人材を確保することができるようになる、といった観点が強いですね。中国など他国との競争に直面している我々としては、どうしてもそういったことを意識しがちです。

 

ただおっしゃる通りで、将来的にもテクノロジーを発展させ続けることや、これからの経済成長を実現していくスタートアップ人材を育成するためには、子どもたちの教育は欠かせないものです。そういう意味でも、私たちが日本のような別のエコシステムと組んでいくことは重要になると思います。

 

 

イノベーションが民主化する時代の到来。

 

Jack Wratten

ここからは、改めて「ディープテックはどのようにして生まれるのか」ということについて考えてみたいと思います。先ほどは「学校がその一助になる」という話が出ましたが、Jovanさんはどう思いますか。

 

Jovan Rebolledo

やはり全ては「情熱」から始まるのではないでしょうか。情熱を抱く対象は、強い興味があることであったり、あるいは頭を悩ませていることであったりと、さまざまだとは思いますが。

 

そしてその上で、「何が問題か」を理解することが非常に大切です。それがわかれば、課題を解決するためのテクノロジーを探すことができるようになりますから。あとは、さまざまなエクスポネンシャルなテクノロジーを組み合わせて、試行錯誤を繰り返すことでプロダクトなりサービスなりを作り上げて、世の中に発表するわけです。これがイノベーションのフルサイクルだと思います。

 

Brian Miller

少し付け加えると、チームの全員が情熱的である必要は必ずしもなくて、リーダーが自らの情熱をチームと共有できれば良いのではないでしょうか。あとは、正しい人材を見つけて、正しいチームを形成できることが重要だと思います。私の場合でいえば、共同創業者のモニカと出会えたことが、事業を前進させる最初の大きな一歩になりましたから。

 

チーム形成においては、メンバーのスキルと能力がうまくミックスされていて、なおかつ全員が同じ方向を目指している必要があります。情熱が重要だというのは、それがなければ強いリーダーシップを発揮することができないからだと思うのですが、私はむしろ「つながり」を作り上げること、そしてチームを作り上げることが、ディープテックにおいて最も重要な部分ではないかと思います。

 

また、これは世界中で認識されていることだと思いますが、過去10〜20年に教育されていた内容と、これからの10年に求められる能力というのは、決して同じものではありません。ということは、これからイノベーションを起こすためには、若者たちとのコネクションが欠かせない、ということになります。

 

 

Jack Wratten

なるほど。このセッションの後半の内容をまとめてみると、高等教育がイノベーションにつながるのは間違いないものの、それは何も研究機関だけで育まれるものではなくて、人生のあらゆるポイントにそのきっかけがある、というところでしょうか。そして、今Brianさんが言ったように、社会にインパクトを与えるチームを形成するためには、実は若者の存在が重要になってくる、と。結論としては、私たちはそういった要素が重なるようなエコシステムを持つ必要がある、ということになりそうです。

 

Jovan Rebolledo

今の話にちょっと実例を付け加えると、Xプライズが開催した『海水から原油を回収する』というテーマでウィナーになった一人は、確か高校生でした。MITやハーバードの教授ができなかったブレークスルーを、高校生が成し遂げたわけです。つまり現代のイノベーションにおいては、誰もがブレークスルーを実現しうるという、ある意味では非常に民主的な領域があるということなんです。

 

Jack Wratten

それは素晴らしいですね。これからも、さらなるイノベーションの民主化を期待していきましょう。これでこのセッションを終わります。みなさん、ありがとうございました。

 


<プロフィール>

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uFraction 8 Limited Managing Director

Dr. Brian Miller
エジンバラ大学で博士号取得。工業プロセスのオートメーションが専門。在学中に考案した細胞分離技術が、Royal Society of Edinburgh Enterprise Fellowship at Heriot Wattを受賞したをきっかけにuFraction8を設立。2017年のTECH PLANTER in UKにて最優秀賞を受賞。現在墨田区の町工場、浜野製作所と試作開発のプロジェクトを進めている。

 

Singularity University Japan GIC Organize

Dr. Jovan Rebolledo
2009年に金沢大学でPh.Dを取得。米国ルイビル大学経営学修士。ロボティクスや人工知能に関する数々の起業経験あり。日本やシリコンバレー、メキシコの数多くのベンチャー企業のアドバイザーを務める。シンギュラリティ・ユニバーシティのGSPに第一期生として参加、以来、シンギュラリティ・ユニバーシティのアジアでの活動に深く関与する。

 

Focustech Ventures CEO

Mr. Kelvin Ong
シード期のテクノロジーベンチャーへの投資に注力するFocusTech VenturesのCEO。15年以上にわたって精密工学に携わってきた経験をもち、世界的なハードディスクドライバーの部品メーカーFocus Techホールディングスのエグゼクティブディレクターも務める。シンガポールにおけるテクノロジースタートアップの現状を伝える。

 

株式会社リバネス 教育総合研究センター センター長

前田里美(まえだ・さとみ)
高校を卒業後、渡米。Wright State University で人間工学心理学の修士、博士を取得。2010年にリバネスに入社。入社当時は、人材開発事業部所属し人材育成企画開発に携わる。2013年5月から国際開発事業部で、教員研修、中高生の国際教育企画の開発に従事。2018年4月から、リバネス教育総合研究センターのセンター長として、非認知能力の評価系と育成の研究を、学校現場の先生方と一緒に取り組む。

 

Leave a Nest United Kingdom Ltd. Director

Mr. Jack Wratten
名門ロンドン大学で生化学者としてキャリアをスタートし、その後スタートアップや社会起業の世界に転出。その経験から、後進アントレプレナーの支援のためにインキュベーション拠点「BLOOM.SPACE」をロンドン大学から通り一本隔てた場所に設置。また、ヨーロッパ全域を視野に入れたアクセラレーションプログラム「Bloom Accelerate」を開始し、40社を支援している。2018年4月よりLeave a Nest United Kingdom Ltd. へダイレクターとして就任。

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