• 第9回 超異分野学会 本大会

[第9回本大会登壇者インタビュー記事]東北大学多田隈健二郎准教授「軟らかさという概念を機構に取り入れた革新的なロボット開発」

2020.01.15

[第9回超異分野学会本大会登壇者東北大学多田隈健二郎准教授インタビュー(研究応援vol.16より)]

多田隈健二郎先生は第9回超異分野学会本大会(2020年3月6日、7日開催)の初日の17:00からセッションルームAで行う「やわらかさでエンジニアリングが変わる」で登壇予定です。

軟らかさという概念を機構に取り入れた革新的なロボット開発

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソフトマターをロボット領域に取り入れることで、ロボット=金属という従来の考えの枠組みを広げようとしている研究者がいる。東北大学の多田隈建二郎氏だ。自身の専門領域であるロボットの機構学だけではなく、先端の素材や機器を積極的に活用し、新たな学問を切り拓こうとしている。

 

相反する高剛性と柔軟性

異分野の知識や技術を取り入れることで、なかなか進まなかった研究の糸口が見えるということはしばしばある。ロボティクスの領域では、金属とプラスチックで骨格、筐体、駆動系を作ることが一般的だが、そこにソフトマターも取り入れたソフトロボティクスという領域が台頭しつつある。しなやかな動きや、安定した物の把持など、硬い素材だけでは実現が難しいことが可能になりつつある。このソフトロボティクスの領域に独自の視点で新たな可能性を次々と発表しているのが多田隈氏だ。大学院の頃は、子供の時からの夢だった惑星探査ロボットに関する駆動機構の研究を行なっていた。研究を進める中で、トーラス機構に着目するようになり、現在では移動体だけでなく、ロボットハンドなどにもこの仕組みを応用し始めている。

 

時代の風をとらえ、ブレークスルーを起こす

多田隈氏の研究にとって大きな影響を及ぼした要素が二つある。一つは加工しやすいゴム材が登場したこと。このゴム材は、実はハリウッドの映画業界の現場を中心に特殊メイクで使われていたものだと意外な出自を多田隈氏は教えてくれた。リアリティを追求する中で進化し、使いやすくなっていったことがソフトロボティクスの研究にも偶然寄与した。そしてもう一つは、安価で扱いやすい3Dプリンタが登場したことだ。この二つが重なったことで、思い描いたパーツをすぐに自分で作れるようになり、研究が一気に加速した。例えば、ジャミング膜グリッパ機構では、ゴム膜で粉体を包み込んだものを、ロボットハンドの中でも掴みたいものと接触する部分に採用した。こうすることで、押し付けにより物の形状になじませた後に、粉体との間の空気を抜くことで膜を硬くすること(ジャミング転移現象)で、複雑な形状や壊れやすい物体でもつかむことが可能となるのだ。

 

生物に習い、アイデアの限界を超える

多田隈氏は全方位移動機構・駆動機構に積極的にソフトマターを活用することで、新たなロボットハンドや、移動体を生み出している。例えば、トーラス機構を実装したロボットハンドでは、トーラス構造の表面を覆うゴム材を外→内→外の順番でゆっくりと等速で回転させた。これによりゴム材が筒の中にもぐりこむ際に対象物に密着し、さらにハンド先端の回転運動による引っ張り込みで対象物を掴めるようになった。柔軟なゴム袋状の構造のおかげで多様な形状の物体を掴むことができる(図1)。また、これを移動体の足回りとして利用した場合には、トーラス構造の外側のどの点でも接地した時に駆動力を生成できるため、瓦礫などの狭い環境にも入っていくことができる。いわゆる筒のような形状をしたトーラス機構から、さらに一歩踏み込んだ新しい機構にも多田隈氏は挑戦している。ヒントを与えてくれたのは、ヒモムシという不思議な生き物だ。「新しい構造や動きを考える時に、生物を観察することは非常に勉強になります」と語る同氏は、ヒモムシから枝分かれ構造の着想を得た。ヒモムシは、紐形動物門に属する動物の総称で多くの種類は海産で、滑らかで平たいひも状の体を持つ。中でも特徴的なのが、側鎖状に枝分かれする舌のような器官、吻をすばやくのばして獲物を捕らえる。さらにこの吻は裏返しにして体内に格納することができる再利用可能な優れものだ。このヒモムシをヒントに、瓦礫の奥まで腕が入っていって、根こそぎ瓦礫を回収できるような分岐トーラス機構を産み出すことを目指している。

 

 

 

図1 柔軟グリッパ機構

 

 

機構学を拡張する

「軟らかさの考えも加えながら従来の機構学の教科書の内容を刷新したい。そのために、ソフトマターを使った事例を出していき、共通項から軟らかさの意味を提示したい」と、多田隈氏は考えている。現在の教科書では、軟らかい部品がロボットに入っていたときにどういう動きになるかまでを完全に説明したモノは世の中に存在していない。軟らかいロボットの社会展開には、世の中にまだない概念やソフトロボティクスのような新しい学問をしっかり教科書などで体系立てて捉えてもらうことが非常に重要だ。学問を体系化することが大学の立場としては、重要な役割を担う。着実に一つずつ研究成果を積み上げ、学問体系を蓄積し、異分野の研究者共に共創することでないと革新的なアイデアは生まれない。これからソフトロボティクスという学問を体系化するにあたり、材料屋や構造の研究者、機電系などの様々な異分野研究者が求められている。軟らかさも備えたロボットが世界中で稼働するためにはあなたの研究がヒントになるはずだ。ぜひ、異分野の研究者こそ、この新しい学問領域に飛び込んで、革新的な技術を生み出して欲しい。

 

<研究応援vol.16 特集「理論から実戦へ、動き出すソフトマター」より>

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多田隈健二郎先生の関連セッション
・3月6日 17:00-18:00 やわらかさでエンジニアリングが変わる@セッションルームA

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