超異分野学会

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レポート

2018年10月10日

分野を超えて感動しながら生きていこう

2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)を捉えたビジネス界の動きが増えてきた。アカデミアにも社会的課題の解決を意識した研究推進がより求められてくるであろう。今回、超異分野学会『“サステイナビリティ感覚”とは?ーSDGs実現を目指すための産業界・行政・アカデミアによる人材育成ー』に登壇した大竹暁氏に、これからのお話を伺った。

 

科学技術にとっての挑戦

井上:全世界に共通の目標としてSDGsが掲げられたことについて、科学技術を発展させる使命を持つ科学技術振興機構(JST)という組織の一員として、どのようにお考えですか。

大竹:まず、SDGsという目標が明示されたことは社会が発展するためのいいチャンスだと思います。また、科学、技術、そしてイノベーションが、人類を幸せにできるかという壮大なチャレンジになるでしょう。昨年、科学技術政策に沿った研究資金の提供機関であるJSTに、“STI [1] for SDGs”というタスクチームが結成されました。研究の世界もSDGsに関わっているという姿勢を打ち出したのです。SDGsに取り組む研究者が増えていけば、社会全体としても研究をサポートしていこうという機運が高まっていくでしょう。一方で、社会の側は科学技術に対して過剰に期待をしてしまう傾向がありますので、今まで以上に現在の科学技術でできること・できないこと、リスク・ベネフィットなどをわかりやすく伝え、コミュニケーションしていくことが大切になっていきます。

 

SDGsはアカデミアと企業の橋渡し

井上:SDGsを視野に入れた研究というお話がありましたが、科学技術の研究成果を研究者が社会へ直接還元するのは難しい場合が多いのではないでしょうか。

大竹:既にSDGsの実現を視野に研究されている方は少ないかもしれません。ですが、人は社会のなかで生活していて、科学の発展は社会からの支援によって成り立っていますから、研究者はもれなく社会に貢献・還元する意識を持つべきだと言えます。そういう意味で、今日、SDGsの実現を意識して研究し、成果を社会に還元していくことは研究者コミュニティにとって重要な考え方ではないでしょうか。その道筋には、企業の力を借りた科学技術の応用も含まれます。ですから、研究者と企業人がもっとコミュニケーションを取る必要があるでしょう。研究者は自身のコアコンピタンスを明確に伝えられること、企業人は目利き能力を持って対話することが大事です。そのときには、儲かるかどうかではなく、研究を社会に届けるために必要なことは何かということをお互いに明確にしていけると本質的な議論ができるでしょう。両者に活気の高い人を集めて対話を繰り返ししていくことで、研究を社会に還元する文化づくりに繋がっていくと思います。

 

分野や立場の枠に縛られないマインド

井上:今後、SDGsのように社会課題を意識したビジネスや研究をすることが当たり前となる時代に求められるマインドは何でしょうか。

大竹:持続可能な発展のためには、基礎研究と応用研究を切り離して考えずに社会へ還元する姿勢での研究やその成果を社会課題の解決を繋げていくマインドが必要でしょう。日本では、高度成長期に大学において、様々な現場の課題を解決するためのエンジニアリングとしての学問体系が構築されてきた歴史があります。今もそういうマインドがないとは言いませんが、以前はより強く持っていたのではないでしょうか。明治維新から始まる近代化の当時、社会へ研究者を含め人材を輩出し技術を産み出す、帝国大学を中心とした政府・企業ネットワークによるエコシステムができ上がっていました。学問を掘り下げる場と社会の課題に応える産業を起こす場が密接だったのです。社会課題が複雑化した今とこれからの時代は、分野や立場の枠に縛られずに他の要素を取り入れ、他のセクションに自在に移動するなど、変化に飛ビ込んで自らを刷新していかなければかつては機能したネットワークも陳腐化してしまいます。そのためにも、違う分野やセクションの人と積極的にコミュニケーションをして、いつも新しいことに真摯に向き合うことが大切なのではないでしょうか。

 

飛び出せばそこには感動がある

井上:異なる分野との接点の作り方について試行錯誤されている方へメッセージをお願いします。

大竹:挑戦を続けていくためには、知識の土壌を自分の中で耕し、視野を広げましょう。視野を広げることで感動が生まれ、これまで接点のなかった方々と話す機会をつかめるようになると思います。そして、良い社会を作りたい、人を幸せにしたいという大目標に加え、自分が何のコンピタンスによってその大目標に貢献するかを決めておくことが大切です。それを軸足として行動範囲を広げればいいのです。私は、物理学に軸足を置いていたことで、良くも悪くも研究者の状況を理解した上で、科学技術と社会との関係を円滑にする仕事に携わってきました。その過程で様々な分野の方、立場の方とお話し、新しい視点や発想、論点なドをいただき、感動することが多くありました。そうした広い範囲の人との対話で作った人脈が、SDGsへの取り組みには無くてはならないものなのです。今までのやり方に固執せずに、本質を具現化する方法に取り組んでいきましょう。

 

大竹氏は、新しいことに挑戦することは「感動」に繋がると強調されていた。これ

からの人材には過去の方法論にとらわれない、広い視野が重要になる。分野を超えて議論を始めることが、SDGsへの取り組みの第1歩。多様な立場の方々が社会課題を解決すべく議論することで、科学技術を社会につなげていく仕組みが醸成されれば、科学も社会も持続的に発展していける希望が見出せるであろう。

(構成・井上麻衣)

[1]Science,Technology and Innovation

 

 

大竹暁氏

東京大学政策ビジョン研究センター客員教授

科学技術振興機構研究開発戦略センター特任フェロー(科学技術政策ユニット及ビSDGs担当)

1984年東京大学大学院理学系研究科修士(素粒子・原子核物理学)取得。同年科学技術庁入庁。宇宙航空研究開発機構総務部長、内閣府参事官、文部科学省大臣官房審議官、科学技術振興機構理事、内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官歴任を経て2017年より国立研究開発法人科学技術振興機構上席フェロー(国際担当)。

 

聞き手:井上麻衣

株式会社リバネス人材開発事業部

東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。博士(国際協力学)。東京大学AGS(Alliance for Global Sustainability)における学生支部で気候変動ワーキンググループ代表を務め、分野横断的に活動。2011年4月国立環境研究所、2014年1月産業技術総合研究所にて持続可能な発展を目指したビジョン研究や再生可能エネルギーの導入可能性評価研究を遂行。2017年4月リバネスに入社。持続的発展可能な社会の実現を目指した仕組みづくりに邁進している。