超異分野学会

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レポート

2018年10月10日

世界はカオスとどう付き合っているのか?

「新規事業の死の谷」を乗り越えられるのは、事業構築の過程で出会うことになるカオスと向き合うことができる者だけだ。個人として、チームとして、そして組織として、混沌とした状況に向き合ってきた世界4都市のベンチャーエコシステムのVIPプレイヤーを迎え、日本の大企業はドのようにカオスと向き合うベきかについての大討論を行った。大切なのは、変化すること、楽しむこと、そしてとにかくやってみること。

 

変化の先にしかビジネスチャンスはない

 

シリコンバレーのシンクタンク、Singularity University(SU)を抜きにして、カオスを語ることはできない。フォーチュン500企業がこぞって未来の事業アイデアを求めることで有名なこの企業には、教育者、起業家、投資家、研究者、哲学者など、多様なメンバーが集まる。彼ら/彼女らが、社内でパートナー企業の未来を議論する様子は、カオス状態に他ならない。パネリストのMolly Pyle氏は、SU内でのベンチャー発掘・育成部門のマネージャーとして、ベンチャーから大企業の接点構築を行っている。ありとあらゆるステージの企業と仕事をしている彼女は「組織の大小問わず、変化し続けることが、今のビジネスで最も重要なことだ」と話す。自分の仕事を上手くこなす以上のことを考え、臨機応変に自らをアップデートすることで、始めて変化し続ける社会課題にも対応することができるようになる。そうでなければ、ビジネスはやがてどこかで廃れてしまう。10年先どころか、2〜3年先の社会状況すら見通すことが困難な現代において、変化は企業の生存戦略として極めて有効だと言える。「新しいビジネスチャンスは、変化の先にあるカオスの中にこそある」のだ。

 

変化領域を選ぼう

 

東南アジアでアクセラレータ/投資家として名高いシンがポールのFocus Tech Ventures CEOのKelvin Ong氏もPyle氏の意見に賛同した。家族で営んでいた精密機械メーカーを売却し、次世代のディープテクノロジーベンチャーの育成に奔走するOng氏は、シンがポールを中心とした東南アジアのベンチャーエコシステムに精通している。そんな彼は「東南アジアにおける大企業の変化の原動力は、ベンチャーとのコラボレーションだ」と言い切る。一方で自国であるシンがポールや周辺諸国は日本と同様に、「一般的には変化を好む国民性ではない」と評する。だからこそ、漫然と全てに変化を求めるのではなく、意図的に変化させる領域を選択すべきだという。そして選択すべきは、大企業・ベンチャーの双方が成し遂げたい企業ビジョンや、変化の推進者としてのベンチャーのパッションに紐づいている領域だとOng氏は考える。その領域で起きることこそが、おそらく付き合うべき「重要なカオス」。この選択なしには、企業はカオスのもたらす不安定性に負け、何も成し遂げることができない危険も認識すべきだとの考えを披露した。

 

人は楽しいところに集まる

 

変化は必要だ。そしてその変化には苦しみが伴う。ただし、苦しいだけでは、取り組みは続かないのも事実だ。ロンドンの中心地にインキュベーションオフィスを構えるBloom AccelerateのJack Wratten氏は、「楽しむとは、人を変える強い要因の一つ」だと言う。ロンドンで10年以上インキュベーションに関わっている同氏は、ベンチャーブームによって、ピッチイベントが頻繁に行われ、当のベンチャーがそれに飽き飽きしている様子を感ジ取っている。「人は単なるビジネスチャンスのためには、集まらないですよ。関わる人やプロジェクトが素晴らしいから集まるんです」と語った。そして、そんな「場」では、今まで気づかなかった考えに触れ、新しいことが始まることが多い。それが、彼が理想とするインキュベーションスペースだ。このWratten氏のアイでアには、Boston発のイノベーターコミュニティVenture Café Tokyoのプログラムマネージャー小村隆祐氏も全面的に賛同した。長く起業家育成に関わってきた経験からも、命令では人が考え方を変えないことは自明だという。自身のプログラムを正に立ち上げようとしている今、実際に「僕の上司は『君に任せたよ』と『楽しんでる?』しか言わないけど、チームが集まってどんどん変化する楽しい経験をしている最中です」とほほ笑んだ。

 

とにかくやってみることが、カオス系での唯一解

 

変化し、その変化を楽しみ、最後に残るのは実行だけだ。パネリスト全員が口を揃えたのは、とにかくやってみることの重要性だった。この考えは、カオスの性質と密接に結びついていて興味深い。バタフライエフェクトを知っているだろうか?ある場所での蝶の羽ばたきの有無が、異なる場所での竜巻の原因となるという、カオスを標語的に表した表現だ。つまり、カオス状態では、初期値の差異が、アウトプットに予測不可能な程の重みを与えることもある。変化し、多様な人材が集まる場所で、とにかくやってみた結果、どんなアウトプットがでるかについては誰にも予測がつかない。とるに足りない結果を得るかもしれないし、もしかすると、人々の生活を一変させるイノベーションに繋がるかもしれない。誰にも結果はわからないのだから、まずは実行し、結果を得る以外に方法論がないのだ。これは、計画経済に慣れ親しんだものにとっては、馬鹿馬鹿しく思えるやり方かもしれない。けれど、「まともにだけやっていたら新規事業なんて進まない」とパネリストたちは口を揃える。結果を得たら、またそれに応じて変化し、その変化を楽しむだけだ。カオスと付き合い、それを乗り越えた先に待っているのも、またカオスなのだろう。