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課題感が仮説の原動力につながる

2019.12.24

第8回超異分野学会本大会セッションレポート
知識の源流を探る~分野の壁を超えることは価値ある着想を生み出しうるのか~【PART3】
セッションパートナー:株式会社フォーカスシステムズ

<登壇者>
京都大学霊長類研究所 ゲノム細胞研究部門 ゲノム進化分野 助教
今村 公紀(いまむら まさのり) 氏
富山県高岡市出身。博士(医学)。金沢大学理学部、奈良先端科学技術大学院大学、京都大学大学院医学研究科、三菱化学生命科学研究所にて学生時代を過ごした後、滋賀医科大学 特任助教、慶應義塾大学医学部 特任助教、理化学研究所 客員研究員を経て、2013年より現職。幹細胞の視点からヒト進化や生後発育の研究に取り組んでいる。リバネス研究費として、ライフテクノロジーズジャパン賞(第18回)、オンチップ・バイオテクノロジーズ賞(第24回)、SCREENホールディングス賞(第29回)、L-RAD賞(第36回)を受賞。
【研究室website】http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/sections/molecular_biology/member/imamura.html

滋賀大学 教育学部 准教授 / 株式会社イブケア 取締役
大平雅子(おおひら まさこ) 氏
2011年大阪大学大学院医学系研究科博士後期課程修了。同年長岡技術科学大学産学融合トップランナー養成センター産学官連携研究員。同年滋賀大学教育学部講師。2015年同大学教育学部准教授。大学院在学中から一貫して唾液中のホルモン等によるストレス評価研究に従事。近年は体組織液・爪・毛髪由来の生化学物質による心的ストレス評価など、唾液を用いないストレス評価の方法論の研究開発にも従事している。博士(医学)。

大阪大学医学系研究科 組織・細胞設計学共同研究講座 特任准教授
株式会社マイオリッジ 技術顧問
南 一成(みなみ いつなり) 氏
2003年3月京都大学理学部生物科学専攻生物物理学教室神経生理学講座 博士課程修了(理学博士)。新規化合物を用いて低コストで安定な細胞分化培養液と細胞培養法を開発し、iPS細胞から高品質の心筋細胞を大量生産して安定供給する研究開発を行っている。この新規培養技術を用いて、より高次の細胞組織を実用化するための基盤作りを目指す。2016年にiPS細胞由来の心筋細胞の大量培養を目指すバイオベンチャー、株式会社マイオリッジ技術顧問に就任。2017年より大阪大学医学研究科 組織・細胞設計学共同研究講座 特任准教授。

<モデレーター>
株式会社リバネス 代表取締役社長COO
髙橋 修一郎 (たかはし しゅういちろう)
東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、博士(生命科学)。設立時からリバネスに参画。大学院修了後は東京大学教員として研究活動を続ける一方でリバネスの研究所を立ち上げ、研究開発事業の基盤を構築。独自の研究助成「リバネス研究費」や未活用研究アイデアのデータベース「L-RAD」のビジネスモデルを考案し、産業界・アカデミア・教育界を巻き込んだオープンイノベーション・プロジェクトを数多く仕掛ける。



課題感が仮説の原動力につながる

南)
もともと単純に細胞培養が好きだったんです。細胞って顕微鏡でしか見えない世界で、学生の頃はシナプスとかを染めて非常に複雑な細胞を眺めているだけで楽しかったですし、視神経のような動く細胞なんかも物珍しかったんです。でもそれだけでは仕事になりません。神経細胞を使って臓器を人工的に作り上げたいっていう夢があり、そうなるとどうしてもたくさん細胞が必要になる。結局、限られた研究費が培地代でどんどん飛んでいくんですよね。そうすると結果的に培地を安くするような工夫をやり始める。それで化合物を見つけて、それが知財になって、それである程度限られた研究費でも周りのニーズに応えて心筋細胞を提供できるようになった。それを生かしてベンチャーもつくろうと、再生医療もやっていこうと、そういうような流れになってやってきました。僕自身がその中でこういったアイデアとか仮説を生み出す原動力が何かと言われたときに思ったのは、やっぱり課題意識なんです。

高橋)
なるほど。ニーズとか、あるいは課題意識とか、そういうものは戦略的に言えば、研究としてお金も付きやすいというか、理解をされやすいとこかもしれません。その点、今村先生はテーマを大きく変えましたよね。ニーズはなかったんじゃないですか?

今村)
そうですね。研究テーマの変更は僕個人のキャリア、そして研究の戦略を考えてのことでした。個人のキャリアについていうと、当時僕は再生医療の実用化を目指した研究室で長く研究していましたが、もちろんすごく重要なことで意義もあるんですけれども、世界中でたくさんの人が同じようなことを目指しているんです。その中で、今この瞬間僕がいなくなったとして、世界は何か変わるかなって思ったんですよね。たぶんそんなに変わりはない。いれば、ちょっとは早くなると思うんですけれども、いなかったとしても世界の誰かが似たようなことを違った方法でやる。そういう中でキャリアを考えたときに、僕がいなくてもいいのであれば、研究者としてやっていく意味はどこまであるんだろうかって感じました。

髙橋)
やっぱり爪痕残したいっていうのは前提としてある感じなんですよね。

今村)
そうですね。研究面でも、人だけ見てても人の事は分からないって限界を感じたところもあるんですね。例えば人の疾病の研究は、健常な方と患者さんで比較することが多いんですけれども、病気の原因が見つかることってほとんどない。実は数年前に『Science』とか『Nature』でも議論されていたんですが、病気って、数個の遺伝子より、ちょっとした環境の影響で起こりうる。つまり、患者さんと健常の方の差って実はそんなに大きくないんじゃないかって。僕はこれは健常者と患者さんではなくて、発症と未発症の差だと僕は思ってます。だからそこに第三の軸として非発症というのがあれば、人の病気の本質というのが見えてくるんじゃないかと考えています。その上で人を知るために人以外の、でも人に近しい何かっていうのが必要になってくる、だから実は僕の中では自明でチンパンジーに行き着いたっていうのはありました。

髙橋)
なるほど。ありがとうございます。こういう話聞くとすごい納得感あるけど、こういう背景的な部分ってなかなかリーチできない。でも、そういうコミュニケーションを取りたい人ってすごいいるんじゃないかなと思っています。大平さんはさっきも走り回るって言っていたけれどそういう中でテーマや仮説を立てるとき、あとはそれを発信するときに気を付けてることってありますか?

大平)
そうですね。正直な話をすると研究者として生きていくための戦略っていうのもかなりあって、私、博士を医学で取ったんですが医師ではないので医学部ではやっていけないんですよね、研究者として。で、工学部にいた時にもちょっと新規参入だったので自信がない部分がありました。その点、私がいま在籍している教育学部の分野は健康に関わる人が結構参入しやすいんです。そういう意味で戦略的にキャリアも考えて選びました。睡眠の研究も7年くらいやってるんですけれども、もともとはストレスを評価するっていうところに特化してたんです。その中で健康になれる空間をつくりたいと考えていましたが、意識がある状態だとすごく左右されてしまうんですよね。例えば香りの場合、副交感神経を活性化させてリラックスする香りを提示してるのに、その香りを嫌いだって思うだけで交感神経が働いちゃって全然リラックスしなくなる。そういうのを考えたときに、無意識だったら一番ダイレクトに効果が見えるんじゃないかと考えて実は睡眠研究を始めました。なので、睡眠研究に関しても自分が見たいとこだけ見ればもうやめちゃえって結構思ってたんです。なんですが、やっていくうちにいろんなことが分かってきたので続けている部分はあります。

 テーマを考える時にしていることですが、過去を振り返ると私自身、学生のときには医学部で研究をしていて、ずっと外の世界を知らなかった。だけども、工学部や心理学系に進むと同じようなことをしている人がいることに気がついたんですね。だけど、その人たちはみんな全然連携しないでそれぞれの方法でやってる。私がそういった中を走り回っていくと、同じことはやっているけれどもちょっと方法が違ったり、切り口が違ったりしていることに気がつくんです。みんながやらないんであれば、私がそれぞれのいいとこ取りをして、新たなことをしようと考えています。そうすると無理だと思われていたことも意外に難なく解決したり、ある分野では当たり前といわれていることも、よくよく聞いてみたら、証明された論文がなかったりするようなこともあったりします。そういうところをしっかり深堀りしていきたいなと考えながら仮説を生み出したりしてます。

髙橋)
僕、今大平先生の話を聞いてて1個、思い出したことがあって、日本の研究ドットコムってまた出しますけども、あれ実は裏側で人間関係が見えるんです。共同研究関係から人のつながりが見えるから。だからえぐいこというと、学閥とか一発で分かったりするんですけど、それって時系列取れるんですよ。2010年、11年、12年って、どういうふうに人がどうつながって動いていくかっていうのが。でも、それ公開すると俺本当沈められると思ってるので、僕のパソコンからしか見えないようになってるんです。でもそれやると面白いことがあって、例えば大平さんいろんな学会にたぶん行ってるんですよ。こういう申請書出しましょうとかっていって、いろんな人と共同研究出すでしょ。そういうふうに出すたびに違う学閥というか、違うつながりでぴょんぴょんテーマを立てるタイプの人っていうのがいるんです。そういう面白い人が見えてくるんです。今って産業界側の皆さんが大学とコラボレーションしようと考えると、キーワードをGoogle検索してどうやらこの何々大の先生がすごいらしいとかで突っ込んでって、なんか大体大変なことになったりするじゃないですか。やっぱり先生方の信念とか仮説に一歩を踏み込んだ産学連携みたいなものをしたいと思った時に、先生がどういうタイプでどんな考えで、どんな思考の癖があるとか、そういう部分にどうやったら産業界はアプローチできるんだろう。実は僕1個アイデアがあるんですよ。ちょっと披露していいですか。コメントくださいね。
どういうアイデアかというと、先生の秘密のデータとか聞きに行くのは大変じゃないですか。信頼関係も必要だし、契約とかも大変だし。でも、研究室にいると最新の論文とかを輪読するセミナーっていうんですかね、ジャーナルクラブとかいうやつですよね、この分野でこんなの興味あるんだって学生とか、先生自身が持ってくることもありますけど、みんなで議論するみたいな場があるんですよ。その場って、別に秘密データ話されるわけじゃないから、ロジックとしてはオープンにしてもいいけど、今大学のゼミ室とかでやっていて、全然アクセスできない。でも、そういう場で取り上げられる論文って先生の趣味もあるし、議論そのものって秘密情報ではないから、結構アプローチしやすい入り口なんじゃないかなって。逆に言えば先生方にとっても、そういうところに来た企業を一緒に組める相手かなとか、どんなふうにできるかなみたいな可能性を探ることができる。論文をみんなで読む場っていうのを一歩公開にするというか、もちろんなんらかの契約なり約束で入ってきてもらう感じでやったら、そこってその一歩先へ進む前のファーストスクリーニングとしてすごくいいんじゃないかと。
 ジャーナルクラブに企業の人って行っても大丈夫だったりするんですか。あるいはそれやっても意味ないよとか、こんな問題出るんじゃないとか、こういうふうなのも必要だよねとか、なんかもしそういうアイデアがあったら言っていただきたいんですけども、南先生なんかあります? 

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