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ロボット探査システムが海底地図を拡げる


東京大学生産技術研究所海中観測実装工学研究センター
巻俊宏 准教授

広大な海底のどこかに存在する資源を探し当て、さらに周辺の詳細な海底地図を作成して採集装置の設置場所を決定する。言葉では表現できても、現在の技術でそれを実現することは簡単ではない。東京大学生産技術研究所の巻俊宏准教授は、海底の地形を自律的にマッピングするシステムの開発を進めている。近い将来、まるでロボット掃除機が家中を動き回って掃除するように、海底を無人探査機が巡っているかもしれない。

1000万円/日のコストを不要にしたい

現在、海底の調査を行う研究者たちは、たびたび観測船で調査の旅に出ている。分厚い海水の層を経た先にある地殻を調べる際には、船舶と有線接続した遠隔操作型無人潜水機(ROV)やバッテリー駆動する自律型無人探査機(AUV)による超音波・画像観測といった方法を用いるが、それらを取り扱うためのコントロールセンター兼電力供給基地として大型の観測船が必要になるのだ。また、観測地が地球上のどこに位置するのかを知るためにも、船舶に搭載したGPSを基準として測量を行う必要がある。「大型観測船による調査には、1日で1000万円のコストがかかります」。これを低減する技術を開発することで、海底探査の進展を加速できるはずだ、と巻氏は話す。開発を進めているのは、複数のAUVと海中ステーションの連携による自律的な海底マッピングシステムだ。

システム全ての開発を自ら進める

このシステムの要点は、次のようなものだ。AUVについては、海底地形の詳細な観測をできることおよび、観測時点での自らの位置(海中ステーションに対する相対位置)を記録できること。海中ステーションは、地図上の座標位置が分かることと、AUVからのでータ抽出およびAUVへの電力供給をできること。これらを実現することで、システムを海中に設置すれば、AUVがステーション周辺の地形を自動的に調査し、マッピングすることが可能になる。システム創成学をバックグラウンドとする巻氏は、多岐に渡る技術開発要素の全てを一手に担っている。

例えばAUVによる詳細観測は、写真撮影による直接観測に加えて、レーザー光を対象物に投射し、反射光を光源と離した位置にあるカメラで捉えることで三角測距を行う光切断法を用いている。このための回路設計も、データ処理も、自前の技術だ。また観測地点の位置記録には、海中ステーションとの間で互いに音響測位を行い、方角と距離に基づいて相対位置を推測する手法を用いている。ステーション側は海底に固定するため、その座標でータをあわせることで、観測地にいるAUVの位置が地図上のどこにあたるのかを割り出すことができるのだ。さらにステーションからAUVへの電力供給に関しても、電磁界共振結合方式による非接触給電の水槽中での試験をすでに行っており、充電まで含めた全自動ドッキングを実現しているという。

自律化を進め探査を拡げる

近いうちに、実際に海域での実証試験を進める予定だと巻氏は話す。「海中では水槽中と異なり波や潮があるため、ドッキング精度が落ちます。そのため位置精度が低い状態でも給電効率を保つための方法が必要になるでしょう。また、海底ケーブルネットワークと海中ステーションを接続して、船舶なしで給電とデータ授受が可能となるような連携も進めていきたいですね」。こうした開発で沿岸部や海底ケーブルネットワーク周辺のマッピングを実現に近づける一方で、さらなるアイデアもある。それは、着底もできるAUVを用いて、ロボットだけで自律的に観測範囲を拡げていくというものだ。基本的な動き方は先述と同様にしながら、2台のAUVの一方が着底してステーション化し、もう一方がそれを測位基準として周辺を探索する。探索距離を稼いだら、行った先で着底してステーション化し、それまでステーション役だったAUVが探査役に切り替わるという構想だ。稼働のためのエネルギーをどうするかといった課題もあるが、すでに熱水噴出孔で熱発電を行う実験も実施済みだという。将来の海底資源探査の在り方に思考を巡らせると、期待が膨らむ。まずは観測船で資源がある海域へと赴き、ソナー、重力センシング、電磁気観測、地盤サンプリングを行う。有望だと判断したら、複数のAUVを海中に投下し、船舶は帰還する。数ヶ月後に同じ場所に行きAUVを回収したら、周辺の詳細な地形マップが完成しており、最適な掘削ポイントも示されている……このような未来が実現したら、地球上の資源価値が大きく変わっていくはずだ。

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